福岡県東峰村。美しい山々に囲まれたこの村に、「やなファーム」という場所があると知ったのは、ある知人の紹介だった。
農業体験や民泊、狩猟や養蜂まで、さまざまな自然の営みに触れられると聞き、以前から気になっていた場所だ。
週末を使ってふらりと訪れてみた。自然の中で生きるということの意味に、ほんの少しだけ触れた気がする——そんな時間だった。
車を走らせ、山道を登っていくと、ぽつんと小さな看板が現れる。案内に従ってさらに進むと、木々に囲まれた開けた場所に到着した。
そこが、やなファームだった。
畑や果樹園、養鶏小屋、そして一日一組限定の宿泊施設「YANAGOYA」など、手づくりの空間が丁寧に整えられていて、一歩足を踏み入れただけで心がほどけるような感覚に包まれる。
出迎えてくれたのは三代目オーナー柳瀬弘光さん。
農家の孫として育ち、大分で革職人の修行をしたのち、地元・小石原に戻ってきたという。今は農業だけでなく、森づくり、狩猟、養蜂など多岐にわたる仕事をこなす日々だそうだ。
「やなファームでは、自然の中で体験できることを、季節に合わせて用意してます」と柳瀬さん。
農業だけでなく、林業、養鶏、養蜂、狩猟、レザークラフトまで——
やなファームでは、四季に合わせたさまざまな営みを組み合わせ、自然の中での自立した暮らしを築いている。
畑では、季節ごとに収穫できる作物が異なり、夏はトマトやナス、ブルーベリー、バジルなどが育つ。秋には梨狩り(新興)が人気で、冬は薪割り体験などもできるそう。
養鶏では「後藤もみじ」という鶏を育てており、新鮮な朝どれ卵が採れる。
また、養蜂では防護服を着て巣箱を覗いたり、蜜蝋や蜜蝋クリームづくりの体験も行っているという。
「農業体験と宿泊を組み合わせて、“暮らし”そのものを伝えていきたい」と語る柳瀬さんの言葉には、温かな覚悟と情熱がにじんでいた。
やなファームには「YANAGOYA(やなごや)」という名の宿泊施設があり、一日一組限定で泊まることができる。
標高約500mの山中にありながら、キッチン・お風呂・トイレ・薪ストーブも完備された空間だ。
特徴的なのは、電気は太陽光による蓄電、水は山の湧水を濾過して使うという“オフグリッド”の仕組み。
自然の力を最大限に活かし、自分たちの手で暮らしをまかなっていくスタイルは、シンプルでありながらとても豊かだ。
夜は星空を眺めながら焚き火を囲み、朝は鳥のさえずりとともに目覚める——
そんな贅沢な時間がここにはあると聞き、いつか泊まってみたい気持ちがぐっと高まった。
やなファームでのひとときは、“自然と共に暮らす”という言葉の意味を、少しだけ実感できるような時間だった。
「できることを、できるだけ、自分たちの手で。」
それは派手ではないけれど、とても力強い選択だと思う。
命を育て、いただき、また土に還していく——その循環の中に、真の豊かさがあるのかもしれない。